人間活動日記

はやく人間になりた~い!

朝は金

 北村薫の『空飛ぶ馬』が好きだ。

 好きな小説は、と聞かれる場面があると、かならずこの本を挙げることにしている。悲しいかな、わたしの年代だとミステリ好き以外にはなかなか知られていないことのほうが多く、これを挙げるのはほぼ自己満足に近い。本来、好きな小説や映画を尋ねられるのは、少なくとも共有や趣味の把握をしたいからであろう。自分の好みなど制限されるものではないしカテゴライズさえ無用ではあるけれど、ひとと繋がりあう努力はしたい。

 それはさておき、『空飛ぶ馬』は女子大生の〈私〉が、日常に潜む謎を落語の噺家である春桜亭円紫さんと紐解いてゆく、今でこそメジャーになった〈日常の謎〉の物語である。

 そんな『空飛ぶ馬』のはじまりに、朝は金というくだりが出てくる。わたしはそれまで知らなかったのだけれど、果物を摂る時間は朝がいちばんよくて昼は銀、夜は銅、と落ちてゆくのだそうだ。

 わたしはとても健康的な(…)福々しい(……)つまりはやや(………)まあ正直に言うと太っている。ナタリー・ポートマン主演の『ブラック・スワン』という映画があったが、プリマを目指す主人公が朝はグレープフルーツ半分しか食べない姿を見て正気か?と思っていたのだけれど、なんとわたし、ナタリー・ポートマンデビューしちゃいました!

 いやなんのことはない、同じ朝食をとっただけの話なのだが。二週間前に買い物に行ったとき、気分で買ったグレープフルーツをようやく食べたのだ。でもわりと起き抜けであってもいきなりカツ丼大盛り食べれた今までのことを思うと、人類にとっては小さな一歩でもわたしにとっては大きな一歩である。

 と、いうのも、祖母と同居した初日の朝ごはんで飲まされたスムージーがわたしにはちょっと合わず…、というかそもそもスムージーとかいう洒落た飲み物がたぶん合わないので、祖母を傷つけずに断る言い訳として朝食抜きの誓いを立てているのだ。悪魔のような祖母の血脈からこんな気の遣える孫が生まれるなんて、キリストばりの奇跡じゃないか?(言いすぎ?)

 とはいえここ一ヶ月わたしは無職で、毎日することがないので朝食を抜いたところで困らない。寝るか本を読んでいたらあっという間に昼になるからだ。おそらく来月半ばあたりから職にありつけるので、その時どうするかが悩みどころである。というかまあ自分で作るだけだけどな。

 しかし朝食ってすごく迷いませんか? わたしなんかは気分の人間なので、「朝は食べない(もしくはチーズやナッツ、フルーツをかじる)自分」に酔っ払っている現状では、そう困らない。あとは逆に、朝食を豪華にするのも好きだ。ふわふわのオムレツにトースト、グラノーラに作り置きのコールスローとスープ、みたいな。それを食べると、今日は動くかあ、とやる気が出る。

 逆にわたしにとってわりとどうでもいいのが夕食の類で、食べたらお風呂入って寝るだけだし…と思ってしまう。酒も体質と好みの問題で自分から進んで摂取はしないため、晩酌の楽しみもない。もちろん美味しいなあとは思うし、箸も進むし、おかわりどう?と聞かれたらいいわねと答えるのだが。……。

 そういう意味で、あの「朝は金」とは、なにも果物に限った話ではないのだと思う。朝は多くの人にとってはじまりだ。はじまりが、黄金の一日をつくるのだ。

 さて、『黒いトランク』(鮎川哲也)でも読んで黄金の一日にするか。